彼はまるで真夏の太陽だった。
口から飛び出す大言も、嘘を感じさせず
はじけるように白い歯を見せて、笑う姿も
グラウンドを走るたびに揺らぐ、土で汚れたユニフォームも。
全てが、ちかちかと光り、虹彩を放っていた。

彼が笑うと、周りが明るくなった。
彼が一言話すと、私の脳は目を覚ました。
彼の姿を見ると、私の胸は高鳴った。
これは恋だ、なんて何の確信もなく、ただそう思った。


「終わったーー!」
午後最後の終業のベルが鳴ると同時に、彼が声をあげ、勢いよく立ち上がった。
田島、静かに。なんて先生の言葉にも耳を貸さず、むしろ彼は早くと先生を急かした。
そんな彼を見て、クラスメイトが笑う。私はただ彼が眩しくて、目を細めた。

「田島、部活行くの?」
騒がしくなった教室の中に散らばる机の間をすり抜けて、田島に声をかける。
「おー、は?帰るの?」
「うん、帰宅部ですから。」
そう返す私に、彼は笑った。
「部活、やればいいのに!ゲンミツに、さ!」
「体力ないし。私は、見てるのが好きなの。」
「そっかぁ?」
唇を尖らせて、まるで幼い子供が拗ねるように、彼は勿体ないと呟いた。
けれど、それもつかの間で、彼はすぐに真っ直ぐに笑い、私の額をその太く逞しい指で小突いた。
「痛いよ、何すんの。」
「スキあり!って思ったから。」
悪びれる様子もなく笑う彼は、まるで真夏の太陽。
「でもさ、ゲンミツには何かやったらいいと思うよ。」
ふわりと、少しだけ真面目に言う彼は、男の人。
「ありがと。考えとく。」
「なんなら、マネジでもいいぜ!」
日焼けした肌に、やけに映える白い歯。
悪戯に笑う目元、元気を象徴するような上がりがちの眉。
鼻の頭に幼さを残すそばかす。
彼が好きだ。そう思う。



「じゃ、俺部活行くから!」
机の横にかかったスポーツバックを勢いよく掴み、彼は一歩踏み出した。
彼が走り出すその前に、私は彼の背中に叫んだ。
「部活、頑張ってね!」
「おー、サンキューな!」
振り返って笑う彼は、まるで。
そうまるで、真夏の太陽。




そんな彼に恋する私は、太陽の陽を浴びて元気になれる向日葵みたいだ。




きらきら


(眩しい彼をずっと見ていたいと思った。)