「尚治、起きてる?」
「…ん、どうした?」
「…寝てたら寂しいなって思って。」
つい数十分前まではあんなに昂ぶった熱は、どこへ行ってしまったのか。
冷え切った体を隣にある体温に寄せると、冷てぇと彼が笑った。
部活で声を張り上げることが増えたせいか、はたまた行為の後故か、少し声が枯れている。
半ば布団に潜り込むようにして、春よりも厚くなった胸板に頬を寄せる。
そこから聴こえる心臓の音に、自分の呼吸を重ねて息をはいた。
「どうした?」
「尚治、あったかい。」
とくんとくん、と一定のリズムを保つ心音は、まるで安定剤だ。
「が冷え過ぎ。寒いか?」
「んー、少し。」
言い終わるより早く、春より逞しくなった腕が私の肩口に添えられる。
そのままぐいと引き寄せられて、素肌と素肌が密着する。
彼が毎日練習でやるように、その体温を分け与えてくれる。その熱は私をおかしくさせる。まるで麻薬みたいに。
「なんかあるのか?」
「なんも。」
「そっか。」
ごつごつした指が、やさしく髪を梳く。後頭部の丸みに沿って、何度も何度も、ただやさしく。
彼の肩口に顔を寄せると、ふわりと舞うのは柔らかい時間だ。
すぐに失われる"それ"を、一欠けらでも掴んで箱の中に閉じ込めたら、一瞬でガラクタに変わるだろう。
だからこそ、愛おしいのだ。
骨ばった指先を掴まえて、唇を寄せる。
愛だとか、そんなおおきなことは未だよくわからない。
けれど、掴んだ指先からはやさしい香りがした。
「はやく寝ないとな?」
「…うん。」
言いながら、彼の顏が目前に迫る。
そのまま抱きすくめられれば、私は夢みたいな時間の中を泳ぐのだ。
「もうちょっと、したら、な。」
「うん。」
濁り切った思考の片隅に、置かれた言葉が沁みる。雫が水面に波紋を広げるように。
ゆっくり浄化されていく。泥を流し、角ばった石ころの端を丸くするように。
鈍った空が、光で澄み渡るように。
nere, here,
肌寒い季節でさえも愛おしく思えるような、そんな気持ちにさせられるのは彼の隣だけだ。