外はしとしとと静かな音を立てて雨が降っていた。
窓際の前から三番目の席に栄口くんが、四番目の席に私が、それぞれ椅子に座っている。
お互い、言葉もなくただ窓の外を眺めていた。
「雨って嫌だね。」
先に言葉を発したのは私だった。思ったことをまるで独り言のように呟いただけ。それでも彼はそれに明確な返事を与えてくれる。
「うん、寒いし、気分が落ち込むよね。」
「栄口くんには、晴れが似合うね。春先の晴れの日。」
「はは、それはさんもじゃない?」
「そう?」
少なくとも、雨よりは似合うかな。
そう言って、彼はふんわりと笑顔を見せた。その笑顔があるから、彼には春先の晴天が似合うと思う。
「あ、ほら、今の顔。」
「え?」
「笑った顔がね、すごく春に似合うんだよ、栄口くん。」
「ふぅん。」
「なんかね、ふわって、栄口くんの周りだけ華やかに見える。」
「それで春?」
「そう、春は花の咲く時期でしょう?」
そう言って笑った私を見て、彼はまた春先の笑顔を見せた。
「でもね、たまに、栄口くんは…、すごく寂しい顔するんだよ。」
「え?」
「気付いてた?」
「いや、自覚はない、けど。」
「そっか。たまに、すごく辛そうな顔してるんだよ。」
「だから、栄口くんには春もそうだけど、梅雨も似合うな、って思ったの。」
「梅雨?」
「そう、梅雨ってさ、神様がずっと泣いてるみたいでしょ。」
ぽつり、と彼が指で頬を掻くのを、視界の隅に捉える。
「優しい栄口くんは、神様の心を察して悲しくなっちゃうのかなって。」
「だから、たまに寂しい顔をするのかなって。」
「さんは、」
「うん?」
「俺のこと、よく見てるね。」
ふんわりと、また微笑う。けれど、春先の笑みではなくて、梅雨の笑顔だった。
瞬間、私の胸は二度、三度、大きく跳ねて、痛いくらいに締め付けられた。
「こんなこと言ってるから、変わってるなんて言われるんだよね、ごめんね。」
へらり、と誤魔化すようにひとつ笑うと、彼はゆるゆると首を振って微笑んだ。
私が彼に対し抱くのは、恋情より淡くて、友情より激しい感情。
それが何なのかは、自分自身よくわからなかったけれど、私たちはどこか似ているなんて勝手に決めて安堵している。
「さんのそういうところ、俺は良いと思うよ?」
「へ?」
「なんていうか、情緒的っていうのかな?さんって感受性豊かなんだなーって。」
「そ、そうですか。」
「うん、個性でしょ?」
花が咲いたみたいに優しい笑顔の裏に在る、雨を降らす顔。
それに気付いているのが、私だけなら。それはきっとありえない話だけれど、もしも私だけなら、きっと私と彼は、私が思っている以上に近しい距離にいるだろう。
恋情と友情の境界線
(それはきっと濁っている)