遙か遙か遠い空が、瞬く間に姿を変えて。漆黒の世界が、色付き始め、まるで世界がすべて希望に満ちあふれたかのような。
そんな錯覚を感じる程、私の周りは変わったのだ。いや、私が変わったのかもしれない。


すべてを終わりにしたくて、何もかもが壊れて朽ちて失くなればいいと。
私や家族や、この世界のすべてが、無に帰すればいいと願ってやまなかったあの頃の私を救ってくれたのは彼だった。
大げさでもなんでもなく、本当にそうだった。



「一人じゃない」



淡々と頭に入ってくる彼の言葉はそう言っているような気がした。
決して多くを語らない彼を、どうしてこれほど愛おしいと思えるのか。
ふとした瞬間、よぎる彼の言葉は、私の中の濁った泥を洗い流してくれる。
彼がどれだけのものを私に与えてくれたか、なんて私だけが知っていればいい。
私の心の中にだけ、留めて。大事に大事に閉まって。
辛いとき、哀しいとき、思い出してみる。
世界が色付く。華やかで、けれどどこか儚く、散る間際のような、輝きを与える。

「…さんは、」
ポツリと彼が呟いて、ふ、と視線を向ける。
「うん?」
「笑顔が似合うね。」
「栄口くんは、よく苦笑いしてる。」
え?と声をあげて、目を丸くする彼が可笑しい。


(栄口くんが何か抱えてるのは、知ってる。けど、)



踏み込めないお互いの領域。
その領域を踏み越えるでも、詮索するでもなく、私と彼は時間を共有する。

私が、彼が。
出会えたことは、ほとんど奇跡に近い。



「もし、ね。」
「うん。」
「私に笑顔が似合うんだとしたら…」
「似合うよ。」
「それは、栄口くんのおかげだよ。」
彼が似合うと言ってくれた笑顔を見せる。
すると、彼は照れたように、少し微笑い、ありがとうと小さく言った。

優しく力強く、励まし合って。
どれだけの想いが、私の中に蓄積されて、どれだけの願いが、彼に伝わったのか。
そんなことは、知らなくても良いのだけれど。


(あなたの言葉に俺がどれだけ救われているか、なんて。)



「ずっと言ってなかったけど。」
「俺さ、さんのこと好きだよ。」

「…私もだよ、ありがとう。」