ひどく空が高い日だった。白い雲が空の青によく映える。風はやわらかに吹いて、教室のカーテンを揺らした。

好きな人がいた。その人は、おしゃれで音楽が好きな人だった。 笑うと更に下がる目元や、いつも綺麗に整っている髪型や、少し高めでゆるい話し声。 彼を構成する全てが、彼を象徴していると思った。

。」
「あ、水谷。」
「あの、さ、今日の放課後…暇?」
「うん、特に何もないけど…どうしたの?」
ふいに声をかけられ、脈が早くなった。
彼と話していると、心臓が飛び出そうなくらい早く脈打つ。それを悟られないように、と話すものだから、彼と話す時の私の声のトーンはいつもより低かった。

「…俺、今日部活がミーティングだけだから、早く終わるんだ。」
「うん。」
「で、あの…話、があるから、ちょっと待っててもらってもいいです、か?」

一瞬、思考が停止した。
こういう呼び出しの仕方は、私が思いつく限りでは、告白だった。 けれど、まさか。そんなことがあるはずがない。

無意識に期待を膨らませる自分を叱咤して、私は一度頷くことで、彼の呼び出しに応えた。


「待たせちゃうから」
そう言って彼がくれたいちご味の飴を強く握りしめる。 その後の授業は全く耳に入らなかった。彼がくれたたったひとつの飴も、勿体なくて食べることが出来なかった。



彼を待つために、放課後の人のいなくなった教室で、私は一人椅子に座っていた。 緊張のあまり何も手につかなくて、あれほど期待はしないと決めたのに、私の胸は嬉しいような怖いような感覚で踊っている。 手のひらで、先ほど彼がくれた飴を転がした。


静かな教室には大きすぎる音を立てて、教室のドアが開いた。
ゆっくりと顔を向けると、顔を強張らせた水谷がそこには居て、私の心臓はおおきな音をたてて急激に脈を速めた。

「ご、ごめん、待たせて…」
「ううん、大丈夫…です。」
「で、ね。話なんだけど…えーっと。」

「ちょっと待って!!」

気が付くと、私は彼の言葉を制していた。ぽかんという擬音を立てて、彼が目を丸くしている。
自分でも何故言葉を遮ったのか、わからなかった。 怖いといえば、そうであったし、期待していないといったら、嘘だった。


…?」
「あ、えと、ごめん、あの…」
「いや、いいよ…、ごめん呼び出して。」
「水、谷…?」
「…今日のことはなかったことにして!ね?」
ふ、と微笑った彼の目がひどく悲しそうで、そんな顔をさせたかったわけじゃないのに、そんな顔をさせているのが自分だと解っていた。 私に背を向け、教室を出ようとする彼を引き留めなければいけない、そんな感情に強いられた。
言わなければならない。そう思った。

「ま、待って…!」


彼の足がぴたりと止まる。



「あ、あのね、水谷のことが…好きです…。」
どこから思考がそうなったのか、自分でもわからなかったけれど、口は無意識に彼への想いを口にしていた。 消え入りそうな声だったのにも関わらず、彼には私が口にした言葉がきちんと耳に届いていたようで、振り向いて顔を赤面させている。
「…え、と…それ、マジ?」
「…う、ほんとです…。」


一歩ずつ彼が近づいてくる。


「俺はてっきりフられたもんだと思ってた…。」
「え、なんで…」
「だって放課後に呼び出しして、話があるっていったら告白でしょ?」
「うん…」
「それを途中で遮られたら、やっぱりダメだったって思っちゃうじゃん。」
「う、ごめん…。」
「…もしかして、、俺が告白するって思ってなかった?」
「…そうだったらいいなぁ、とは思ってたけど…」
「でも、そんなことあるわけないって思ってて…」



彼は目を細めて、まるで慈しむように私の髪を指で梳いた。



「へへ、俺すっげぇ幸せ。」
「…そう?」
「だって、好きな子が俺のこと好きって言ってくれたんだよ?」
「それって、幸せでしょ?」
「…うん、そうだね。」


繋がる想いは、







「ねぇ、そういえば言いそびれてた。」
「なにを?」
「好きです、俺と付き合って下さい。」
「!?な、なにを今更…?」
「だってが俺の告白を遮って告白してきたから、言えなかったんだよ?」
「そ、そうだけど…今更言わなくたって…」
「俺には大事なことだったの。」

「で、返事は?」
「〜〜〜っ!良いに決まってるでしょ、わかってるくせに!」
「はは、ごめん。でも好きだよ、ほんとに。」