好きだと、何度口にしてもこの想いの質量は減ることはなかった。 体を何度重ねたって、この欲望は止まることを知らなかった。

「なぁ、。」
「んー、なに?」
「好きやで。」

そう口にすると彼女は、いつだって頬を赤く染めた。 好きだと言う言葉は決して嘘じゃなかった。こういう言葉は、何度も口にすると軽く聞こえるのだと、分かっていた。 けれど、それでも言わなければ自分の気が済まないのだ。そして、その度に頬を染める彼女が愛おしくて仕方がないのだ。

俺だけに見せる顔。俺しか知らないの顔。
声も、体も、全て俺だけのものになってしまえばいいと、自分勝手な欲望が内から沸いて溢れる。

「あんまり言わないで。」
「そやけど、好きやねん。しゃーないやろ。」
「嫌だ、恥ずかしい。」
俺の部屋のベッドに俯せになり彼女は、真っ赤に染まった顔を隠した。 可愛いヤツだと、その髪の一本一本を指で梳いていくと、彼女はゆっくりと顔をあげた。
「ねぇ、蔵ノ介。」
「ん、なんやー?」
「私ねぇ、蔵ノ介の指が好きだな。」

迷いも淀みもなく紡がれた言葉に、手が止まる。

「手ぇだけ、やの?」
「あと声と、髪と、目と――」
彼女が全てを言い終わる前に、その細い手首を握り、空いた手で腰を掴み、俯せのままの彼女の体を反転させた。 そうして、肩を掴むとそのままベットへと縫いつける。
「それって全部ってことやんな?」
に、と片頬をあげて笑うと、彼女は目を見開いて、そのあとすぐに顔を背けた。
「…蔵ノ介、自分で言ったら台無しだよ。」
自分が言おうとしていたことを言われ、拗ねたのか彼女は唇を尖らせてぼそぼそと小さな声で呟いた。
「…の前なら、台無しだってええ。」
「こんなとこ、他の人に見せたらバカップルって言われるよ。」
「ええやん、だって実際そうやろ?」
「…そうだけど、」
もごもごと口ごもる彼女の唇を優しく塞ぐ。
小さくあがった彼女の声は、2人の口内でくぐもった音となった。

キスをしたあと、彼女はいつも小さく笑った。
はにかんだように、幸せを噛みしめているように、小さな声で笑うのだ。 俺はそんな彼女の笑顔が愛おしくて仕方がなくてキスのあとは、いつも彼女の顔から数センチの距離で同じように笑った。

「私ね、蔵ノ介とキスするの好き。」
「…なんや他の誰かともキスしてるみたいな言い方やなぁ。」
「してないよ!」
「わかってるって。」
もう一度、軽く口付ける。小さな音を立てて、啄むように。


幸福とは、こういう時間を云うのだと、ほんの15年生きただけで悟ったように思う自身に、苦笑する。 けれど、現状はまさに幸福としか言い様がなく、己の腕の中で微笑むをきゅうと柔らかく抱きしめることで、俺は『幸福』を噛みしめた。



相互性幸福理論


確かめなくたってわかる、彼女も俺と同じ気持ちなんだって