いつも思っていた。
恋とは何なのか、そこに定義はあるのか。
周りの人たちは「恋をすればわかる」なんてしたり顔で言うけれど、その恋とやらは私にはなかなか訪れないようだ。
身を焦がすようだとか、苦しくて涙が出るだとか、その人を想うだけで心が弾むだとか、恋とはなんて心を不安定にさせるものなのだろう。
そんなようなことを、ふと漏らすと向かい側に座った白石くんが困ったように笑った。
「なんや俺ら付き合うとるのに、そんなこと言うて」
「白石くんのことは好きだよ」
「せやけど恋じゃないって?」
訝しげに、少し悲しそうに顔を歪めて彼は首を傾げた。
こんな顔をさせてしまうのは本意ではないのに、私は言葉を上手に選べない。
「恋なのか、なんなのか、私にはよくわかんない」
彼のことは好きだった。あたたかい色をした色素の薄い瞳も、柔らかな声音も、骨ばった指先も。
彼の傍は落ち着いたし、心乱されるようなことなどなく、いつでも暖かい陽の下にいるような気持ちにさせてくれた。
「みんな会いたくて会いたくて苦しいとか、そう言うけど…」
「思ったことない?」
言われて気付く。彼はいつでも傍にいてくれた。それこそ日を空けずと、ずっと隣にいた。まるで家族のように自然に、隣に彼がいることが当たり前だと錯覚させる程に。
「…白石くんが、ずっと私の隣にいてくれたから?」
「そやったら嬉しいけどなぁ」
言いながら彼は笑った。私の好きな優しい笑みだ。細められた瞳と少し下がる眉根。あたたかくて優しくて安心する。
「それだったら、白石くんは家族みたいだよ」
もしかしたら家族よりも近しいかもしれない。
この世にいる誰よりも私に近くて、誰よりも私を安心させてくれて、誰よりもあたたかくて優しい人だ。
「…殺し文句やなぁ」
どこで覚えたん?なんて笑う彼の瞳はさっきよりもずっとあたたかかった。
「じゃあ私はずっと白石くんに恋してるね」
「はは、おおきに」
「それとも愛かな」
「…またそういう…、どこで覚えたん?」
困ったように微笑む彼に、胸の中からじんわりと熱が出ていく気がした。
「別に恋とか、愛とか、そんなん人それぞれなんやから、はそのままでいてくれたらええよ」
「それは殺し文句?」
「そう思ってくれるんなら本望やな」
彼のあたたかい瞳に映る私も同じように笑っていたらいい。
彼も同じように思ってくれていたらいい。
季節