すっかりと空が高くなった。もう季節は秋だ。
あんなに青かった木々は葉を散らし始め、目に映る景色はどこか物悲しさを帯びてきた。
秋はいつだってどこかに寂しさを滲ませている。
それが好きでもあったし、嫌いでもあった。
「ねぇ、蔵ノ介は秋って好き?」
隣を歩く彼にそう尋ねると、あたたかい瞳がこちらを覗き込んだ。
彼の瞳はいつだってあたたかさを含んでいる。
それが私を安心させてくれるのだ。
「突然どないしたん?」
優しく微笑いながら、彼は首を傾げた。
ゆるく下がる目尻とゆったりとした動作が秋によく似合っていると、頭の片隅で考える。
「なんとなく。私は秋って好きだけど嫌いだから。」
「なんやそれ。」
小さく笑い声をあげる姿すら、夏とは違って少し寂しさを感じさせるのは秋のせいなのだろう。
冬に向かって色数を少なくしていく秋は、一抹の不安を煽るようで酷く焦る。
理由はわからないけれど、体の奥底にある不安を掻き立て焦燥感だけを膨らませていく気がするのだ。
「俺は秋は好きやなぁ。」
「どうして?」
優しい色をした瞳が、笑みの形を造る。
秋の寂しさも優しさも帯びた瞳は、夏とは違って少し大人に見えた。
「美味いもんも多いし、紅葉も綺麗やし、それに秋は人肌恋しくなるやろ。」
言いながら彼は困ったように笑った。
いつもより切なさを感じさせる笑みは、きっと秋のせいだ。
ほんの一瞬、彼の瞳が暗く濁ったのを私は見逃さなかった。
「そしたら、がもっと俺を恋しく思ってくれるやろ?」
そう続けた彼の瞳は、いつもと同じ優しい色をしている。
「ふふ、そうかも。」
それに気がつかない振りをする私はずるいのかもしれない。
ただの甘えたがりなだけかもしれない。
「っていうんは、建前で実は俺が寂しいだけやけどな?」
笑い声をあげながら、彼はそう言うけれど私はわかっている。
「じゃあ、寂しがりで甘えん坊同士でちょうどいい季節だね?」
「せやな。」
言いながらどちらともなく手を取った。
絡み合う指には自然と力がこもり、離さないようにと何故か必死だった。
ひたすらに隠すのは寂しさと不安なのか。
それは秋のせいなのか。
私たちはお互いの手を離さないように、ずっと今が続くようにきつく手を握り合った。
幼い子供が親の手を握るように。
目に映る景色は、相変わらず物悲しさを感じさせるけれど、手のひらから伝わる熱と優しい瞳はあたたかかった。
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