愛して愛されたいのに
自分でも自覚はあった。人一倍、独占欲が強いということ。
自分でも抑えられない程の気持ちが、自分の中で渦巻いている。
それは時に俺自身、気が付かないうちに爆発したり、彼女を傷つけたりした。
不器用に謝る俺に、彼女はいつも苦く笑って「大丈夫」と呟いた。
大丈夫なはずなどないのに。
彼女はいつだって、そう俺の我が儘を何の非もない彼女にぶつけた時だって、少し困ったような傷ついた猫のような笑みを浮かべて「大丈夫」という嘘の言葉を紡いだ。
「孝介がね」
「…んだよ。」
「不器用だってこと、知ってる。」
「…悪かったな。」
「違う、そういうところも私は好きだから。」
にこりと笑うその表情すらもが嘘に思えるのは、どうしてか。
知らない内に溜まっていく煽情と憎悪と愛情。それらがごちゃ混ぜになってぐるぐると俺の中を掻き回していく。
すると、俺の中で得体の知れない感情なったそれらが爆発してしまうのだ。
「…俺がさ、」
「ん、なに?」
「どうしよーもないことでお前に八つ当たりしたりとか、嫉妬したりとかしたらさ、怒ってくれよ。」
「いきなり、どうしたの?」
彼女は、小さく微笑むと首を傾げた。おおきな瞳はひとつの曇りも見せない。
それが酷く腹立たしくて、それなのにひどく愛おしい。
俺をおかしくさせる波は、それはもう唐突に訪れて、俺から理性を奪い去っていく。
そういう時、彼女はたくさん傷ついて、心のどこかで泣いているのだと。それなのに嘘の笑顔を創り上げて、俺を包んでくれるのだと、知っているのだ。
「…。」
「ん、なーに?」
ふわり、と色濃く笑う彼女は、いつだって太陽のようにあたたかで、華のように愛らしく、星のように儚かった。
焦がれて、やっとの思いで手に入れて幸福で満たされたというのに、次の瞬間には失う恐怖で俺の体内は満たされた。
それ故か、彼女に関することとなると、俺は異様に反応してしまうのだ。
頭に血が上るというのだろうか、彼女のことになると周りすら見えなくなってしまう。
たとえば、彼女が俺以外の男と笑顔を浮かべて話している時。
あるいは、彼女が酷く扇情的な服装を身に纏っていた時。
彼女自身に、何の非のないことだとわかっていても、嫌な昂ぶりは何時だって俺から冷静さを奪って、彼女を苦しめさせた。
したくてしているわけではない、そう言い訳をする俺は、酷く醜いのかもしれない。
「…俺さ、お前のこと大事にしてーんだ。嘘じゃなくて。」
「うん、わかってる。」
「けど、上手くいかなくて…ホント、ごめん。」
こみ上げてくる熱いものは、俺が流すべきものじゃない。
彼女こそが、流すべきものなのに。
彼女に苦しみを与えている俺より、与えられている彼女の方が苦しいのだから、涙など俺が流すべきじゃない。
それなのに、我が儘な俺の感情は、ただ嫌な感情を体外へ出したいがために、涙として放出させようとする。
抱えていかねば、ならない。
彼女への愛まで一緒に流れていかないように。
「孝介、大好きだよ。本当だよ。」
彼女の言葉さえも、霞ませないように。
「俺だって、本当に好きだから。愛してるって言ってもいい。」
彼女の愛が、俺にいつまでも注がれるように。
俺たちに別れなど、来ないように。
やさしくゆるく縛り付けて
(いつか僕がうまく愛せる日が来るまで、ずっと)