彼はそれはそれは不器用で、私も負けず不器用で、お互いの歯車はどこかでズレて、すれ違って、上手くいかないことがある。
そういうとき、彼は決まってバツが悪そうに私の頭を撫でた。
そして、私はまるで子供のように泣きじゃくった。
「悪かったって。」
「孝介はわかってない、わかってないよ。」
「だから、悪かったって、」
「違うの、悪いのは私なの、それなのに孝介がいつも謝るのは、おかしいんだ。」
孝介が他の子と離すのが嫌だ、とか。
野球部のマネージャーの子が可愛いから、孝介が盗られてしまう、とか。
私よりも可愛い子は沢山いる、とか。
それはどうしようもなく身勝手な嫉妬だったけれど、歯止めが利かなくなる程に私を狂わせた。
私がこんなに嫌な女だったなんて、私自身、知らなかったし、きっと孝介も知らなかった。
「孝介は、優しいから、私のことフれなくて、付き合ったん、だよ…。」
「違うっつーの。」
「じゃあ、私のどこが好きな、の。」
「私はこんなに嫌な女なのに、孝介のこと独占したがる嫌な女なのに。」
「もう…別れ、」
「言うな、」
私が悲観的な言葉を口にするより早く、孝介が不器用に、痛いくらいに、唇を重ねてくる。
浅く、深く、繰り返されるキスは、甘くはなくて。それなのに、私の思考を濁して、奪った。
「言うな、そういうこと。」
唇を離した孝介が、酷く痛々しい表情をしているのが私の瞳に映る。
「…ひ、っく。」
「泣くなって、俺もお前も悪くないんだから。」
「だ、って…わ、私は…我が儘で、いつかきっと孝介も嫌になる…。」
「ならない。」
「なる。」
「…お前の我が儘は、もうずっと前から知ってたって。」
「それでもお前と付き合ったのは、そういうとこも全部好きだから、だろ。」
孝介が可愛い顔に似合わない男の人の手で私の頭をぶっきらぼうに撫でる。
微かに感じる指の感触が、ごつごつと骨張っていることに安心する。
「…、ごめんね、我が儘で…っ」
「もういいって、気にしてないから。」
「好き、好きだよ、孝介。」
「知ってる。俺も好きだよ。」
強く腕を掴まれて引き寄せられて抱きしめられる。
ひどく強引な仕草、それなのに彼のそれはいつも優しい。その優しさが、私だけに向けられるなら私はこんな嫌な女になったりしない。
彼が私だけの人になればいいのに、そうして私も彼だけの人になれればいいのに。
奪え、濁せ
おかしくなるくらい俺を愛せばいい