午後一番の授業はいつも瞼が重たかった。
それでも授業を受けなくては、と必死に睡魔と戦ってみるのだけれど、
窓から入る心地よい光と風に、俺はあえなく睡魔に負けた。

こくりこくりと頭が上下しているのが、ぼんやりとした思考で更にぼやけて気持ち良い。
しかし、中途半端な眠りのためか、そのまま勢いよく頭を机にぶつけてしまう。
額に感じた痛みで、眠気が飛ぶと同時に、後ろの席から笑いが漏れた。

(おまえなぁ、笑うなよ。)
(だって、花井…、思いっきり頭ぶつけてんだもん…っ!)
(うっせー、眠いんだよ。)
(あはは、花井の額真っ赤。可愛い。)
(からかうなって。)

小声で後ろの席のと会話をする。
先ほどの格好悪い姿を見られていたのかと思うと、少し恥ずかしかったけれど、彼女とこうして授業中に話すことは心地よくて好きだった。

彼女は子供のように無邪気な姿を見せることもあるし、
まるで大人の女性のような色気を漂わせることもあって、
そのギャップを目の当たりにする度に、俺の心臓はおおきく音を立てて俺を動揺させた。
彼女の声が俺の名前を紡ぐ度、緩む頬も、
彼女の髪が風になびく度、騒ぐ欲望も、
彼女が誰かに笑う度、疼く嫉妬も。
全てが恋を象徴していた。

何度か、気持ちを伝えようと思った。しかしそれはあえなく失敗に終わった。いや、始める前から諦めていた。
伝えよう、そう決意すると俺は決まって、まだ見えないその場面を想像した。
想像のそれは、いつも悲しい結末を迎えた。

想像ですら、上手くいかせることの出来ない自分が情けないと同時に、そんな想像をする自分が恥ずかしかった。

だから、この恋は決して実らなくても良いのだと言い聞かせた。
彼女とこうして授業中に少し話せるだけでも、
彼女が変わらず俺の名前を呼んでくれるのなら、彼女がただ笑ってくれるのなら、それだけで十分なのかもしれない。
それ以上を望むことは、欲張りなのかもしれない。そう言い聞かせた。

―――言い聞かせる度に鈍く痛む心臓を、無視することは正直辛かったけれど。



終業の鐘が鳴る。それと同時に騒がしくなる教室。ひとつ欠伸をすると、俺は机の上の物を片付け始めた。
コツリ、と後ろから頭を叩かれる。
「いって、」
「花井、居眠りしちゃだめなんだよ〜?」
へらりと笑い、彼女はもう一度俺の頭を軽く小突いた。
触れられた箇所は、熱を帯びたように熱くなる。抑えきれない欲が俺を支配しようとする。

「仕方ねーだろ、朝練で疲れてるんだ、俺は。」
「ん、そうだね。部活頑張ってるもんね。」
吐息を漏らしながら彼女が小さく笑う。膨れあがる恋情がもどかしい。

「頑張ってる花井には、これをあげる。」
手、出して。そう言われ、素直に右手を彼女に差し出すと、俺の手のひらに彼女の手のひらが重なった。
重なった手のひらから俺の手に落とされたのは、青い鳥が描かれた小さなしおり。
「しおりなんて使わないかもしれないけど。」
少し苦く笑ったあと、
「青い鳥は幸せを運ぶでしょ、だから花井に幸せが訪れますように。」
にっこりと眩しい程の笑顔を見せる。

「なんて、ちょっとクサい?」
悪戯に笑ってみせる彼女が愛おしい。
「いや、サンキュ、な。」
「どういたしまして。」




こんなにも愛おしいのに、こんなにも欲しいのに。
想いに蓋をするなんて、到底出来そうにない、と自分の心に強く残された彼女への恋情を抱きしめた。





恋を叫ぶ

(だから、どうか青い鳥が僕に訪れますように)