「もしも、の話だぞ?」
「へ?」
いつもの休み時間、前の席に座っていた花井が突然振り向いて、そう切り出した。
あまりに唐突すぎて、素っ頓狂な声をあげたのだが、花井はそれに気づいていないのか、顔を若干赤らめてうなっている。
いつも落ち着いていて、野球部の面倒を見ている彼にしては珍しいと、私は何も言わずに彼の次の言葉を待っていた。
しばらくの間、彼は何も言わず、次の言葉を探しているようだった。俯いて、少し唸りながら。
ふ、と窓の外を見ると、先ほどまで太陽を覆っていた分厚い雲が流れて、ちょうど半分くらい太陽が見えたところだ。
少しだけ差し込む光が、あたたかい。
花井に目を戻すと、先ほどまで俯いていた顔が、真っ直ぐにこちらを見ていて、彼の色素の薄い綺麗な瞳と視線が交差した。
瞬間、私の胸がひとつ小さく鳴った。それと同時に花井が言葉を紡ぎ始めた。
「もし…、」
「うん?」
「もし、のことが…好きだって思ってる奴がいたら、……どうする?」
「はい?」
あまりに突飛な内容に、思わず口が開いてしまう。
花井は、やけに真剣な顔して少し伏し目がちになりながら、私の返答を待っているようだった。
私のことを好きだと思っている人がいたら、どうするか、なんて質問、答えようがない。
どうするもなにも、誰が私を想ってくれているかによって、返事は変わってしまう。
「…えーと、誰かが、その私のことを好きになってくれた、んですか?」
「だっ、だから!もしもの話だって…!!」
もしも、とはいえ、誰かによって変わってきてしまうのに…なんて思ったのだけれど、
花井があまりに一生懸命なので、これ以上追求するのも可哀想に思えてきて、答えられる限りの返答を紡ぐ。
「…えっと、そりゃ嬉しいよ。誰かに好かれるのは。」
「相手が誰でも、か?」
伏せていた目を少しだけあげて、私をちらりと見上げる花井は、ひどく綺麗で少しだけ驚いてしまう。
「う、うん。」
「……」
「は、ない?」
それっきり黙り込んでしまった彼は、ごつんと鈍い音を立てて机に伏せてしまった。
私は何か悪いことを言ってしまったのだろうか。彼の気に障ることを言ってしまったとか。
それとも、彼は具合が悪かったのだろうか、だから唐突にあんな話をしたのだろうか。
「はな「あの、さ!」
それは甘い恋煩い
「お前のことが、好きなんだけど!」