寂しさを堪えることに、あまりにも慣れてしまった俺は、大人ぶった子供だった。
寂しいと言えない強がりな彼女は、成長しようとする少女だった。
俺たちは、お互いがまだ未熟であるのに、2人が抱いた感情は大人が感じるそれよりも、ずっとずっと強いと信じていた。
それが実際、強いかどうかなんて、誰にもわからない。
ただ、俺たちは、この気持ちは誰よりも強い、なんてなんの根拠もなく思っていた。
「良郎、応援団楽しい?」
週に多くて二回、俺たちは一緒に帰る。
触れそうで触れない指先が、ひどくもどかしい。
「おー、楽しいよ。」
「そっか、良かったね。」
にこりと笑う彼女の瞳の奥が、少し暗く染まっていることに、俺はずっと前から気付いていた。
寂しい思いをさせていることは、わかっていた。そして、その寂しさは決して、彼女だけのものではなかった。
俺とて、同じなのだ。
もっと会いたい、もっと話したい、もっと触れたい。
そんな欲望は、俺の中でいつだって激しく渦巻いていた。
けれど、俺は欲張りだから、応援団も彼女も手放したくなどなかった。
その結果が、今彼女も自分をも苦しめている。
空が赤から濃い群青色に変わっていく。足下で濃く長く伸びる影が、俺たちを包んでしまいそうな程、深い。
近いようで、遠いような、俺たちの距離。
それは心地よい距離だったけれど、ときたまもう離れてしまうのではないかと思う程、途方もなく遠い距離のように感じられたりした。
「次、一緒に帰れるのいつになるかなぁ…。」
そう彼女がポツリと呟く。その声音は、ひどく哀しげで、俺の胸はずきりと大きく一回痛んだ。
ぽろぽろと零れる言葉は俺の脳天に響き、彼女の呟きはまるで叫びのように聞こえた。
「…ごめんな。」
「えっ、あ…違うよ、今のはただ単に、いつかなって思っただけで。」
「違うだろ?」
「違う…、良郎は悪くない。今のは私が悪いよ。」
言っちゃいけないことを言ったね、そう言って彼女が笑う。その瞳が暗く深く哀色に染まる。
「…。」
小さく彼女の名前を呟くと、彼女はにこりと笑った。見慣れた笑顔。少しだけ寂しい笑顔。
「無理すんなよ、いや、させてんのは俺なんだけど…。」
「ううん、大丈夫。」
いつから、俺たちはこんなに不器用になったのだろう。
お互いの気持ちにブレなどないはずなのに、お互い言いたいことすら言えなくなってしまっている。
お互いがお互いを好きであるために、素直になれないということが、こんなにも切なくて苦しいことだなんて、知らなかった。
「…大丈夫じゃねーだろ?俺は…っ、俺は…」
寂しいよ、そう言いたいのに、何故か言えなかった。
「良郎、…私も同じだよ。」
小さく紡がれた同調の言葉は、主要な言葉さえ見あたらなかったけれど、俺の胸に強く響いた。
寂しい、そう明言することで、もっと寂しくなることを、俺たちは知っていた。
だから素直になれなかった。だから、言わなかった。
「…ごめんな、でも…ちゃんと好きだから。」
「…うん。」
「本当に大好きだから…、離したりしないから。」
今の気持ちを明確に表現出来る言葉が、見つからなくて、俺は支離滅裂にも取れる表現で言葉を紡ぐ。
それでも彼女は、俺の言いたいことがわかるらしく、その長く濃いまつげで縁取られた目に泪を溜めて頷いた。
溢れ出すのは、感情ばかりで、それを補う言葉は、いつだって俺たちに足りなかった。
言葉で補えない部分を庇うようにして、俺たちはお互いの手を強く握った。
俺は大人でいるつもりの子供で、
彼女は強く在ろうとする子供だった。
あまりに幼い俺たちは、それでもお互いを必要としていて、離れられないくらい想い合っていた。
だから時に、哀しくなり、寂しくなった。
それは俺がもう少し大人になった時に、そして彼女がもう少し素直になった時に、もっとゆるやかな愛として俺たちの間に生まれるんだろう。
ぽろぽろ
(もっと上手に愛したいのに、愛されたいのに)