私が彼を好きだと感じることは、そもそも何から始まったのだろう。
好きという気持ちは案外簡単に壊れていくし、思いこみ要素だって十分すぎる程に在る。
一人の人間が、誰か別の人間を『好き』になることは、それこそ不確定すぎて、不安定だと思うのだ。
そもそも人は、何をどう感じて、誰かを好きになるのだろう。どこからが『好き』になるのか、そう考え出したらキリがなかった。
「なに考えてんだ?」
「なにって、何が?」
「むずかしー顔してっから。」
「私は、浜田のどこが好きなのか、考えてた。」
「…それはまた…酷いな。」
浜田が顔をしかめた。確かに酷いのかもしれない。
どこが好きなのか、名言できない私には、彼を好きでいる資格などないのかもしれない。
そう思ったら、頭が痛くなった。ずくずくと鈍い痛みは、私から思考を奪う。
「…だってね、浜田。」
「おう。」
「人は、簡単に誰かを好きだって言ったりするけど、私には好きって感覚がよくわからないよ。」
「俺のこと好きじゃないのか?」
「…好きだよ、でもそれは他の人が感じる好きと一緒なのかな。」
「…難しい質問だな。」
「ごめん。」
いいよ、彼はそう言って、苦笑した。
本能的には好きというものを理解していた、けれどそれに理由を付けたがる私は、なんて幼いのだろう。
日に日に、私の中を占める浜田の度合いが増えていくこと、それは私が浜田を好きだということを十分に示していた。
それが怖かった、どれだけ好きになればいいのか、きっとこれ以上好きになったら私は浜田なしでは生きられなくなるだろう。
そう思うと、何か理由を付けなければやっていけないような気がした。
まだ間に合う。
浜田なしで生きられなくなる前に、彼との距離を少し離せばいい。
そうしてもしも別れがくるとしたら、それまでだ。
まだ、間に合うのだから。まだ浜田なしじゃ生きられなくなってはいないから。
「俺はさ、のことすげー好きだよ。」
「…何、いきなり。」
「今更言うのも恥ずかしいけど、好きだよ。」
「う、うん。」
「考えすぎるのは、お前の悪い癖だな。」
くしゃり、と浜田が顔をゆがませた。その表情は、笑っているようにも見えたし、泣いているようにも見えた。
「お前が、もし俺のこと要らないっていうんだったら、俺は別れるよ。」
「…うん。」
「でも、そう思ってないんだろ?」
「…なんで、決めつけるの。」
「じゃあ、こそ、なんでそんな顔するんだ?」
別れる、その言葉を聞いただけで、頭が割れるように痛んだ。
私にとって浜田の存在は大きくて、大きすぎて、既に彼なしでは生きていけなくなっているのかもしれない、なんて思考の隅で思う。
「…だって、浜田に依存しちゃうもん…。」
「それだけ俺が愛されてるってことだろ?」
「…浜田は大人だから、受け入れられるかもしれないけど、私は子供だから…自分の気持ちが止められないんだよ。」
「いいよ、それでも。」
「良く、ないよ…。」
浜田を縛り付けたくなんてない、だからそうなる前に私から距離を置くのは最善のことだと受け入れようとした。
けれど、そんなこと到底無理だとわかっていた。
わかっていたからこそ、辛かった。
「…じゃあさ、ゆっくりでいいから。」
「うん。」
「俺のこと上手に愛せるようになってくれよ?」
「うん、待っててくれますか?」
「そりゃ、もちろん。」
ありがとう、小さく呟いた私の頭をを浜田のおおきな手のひらがゆっくりと撫でた。
不器用な彼女
(愛され方なんてどうだった良い 愛してくれるだけで)