たどたどしく紡がれる鼻歌を聴いたのは、いつぶりだったか。
彼の低いような高いような曖昧な声色で奏でられるその歌は私のお気に入りだった。
少し切ない歌だけれど、彼が奏でると少しだけあったかくなる。

「ん、どーした?」
ぼんやりと景色を眺めていた私に気づいたのか、彼が優しく微笑って声をかけてくる。
「う、ん?別に、どうもしないよ?」
「そっか?」
また始まる鼻歌が、私をぼんやりさせることに彼は気づいていない。

(良い天気)
空を眺め、少し早く流れる雲を目で追いながらそう思う。
私たちの真上を通り過ぎていくあの白い雲みたいに、私たちもどこかへ行ければいいのに。
それこそ、二人だけの世界へ。

(なんて、少女漫画じゃあるまいし)
自分の甘ったるい考えに苦笑する。
横では浜田が小さく鼻歌を口ずさむ。

真っ直ぐに誰か一人だけを想うことは、少し甘くてそれよりも切なくて。
それでも誰かを好きになることは素敵だと思えるのは、きっと何にも変えられない温かさを知っているから。

「ねえ、浜田。」
「んー?」
「好きだよ。」

ぶは、と彼がむせ込んで、私はそれにくすりと笑う。
しばらくして、息を落ち着かせた彼がきょどきょどと、おかしくなるくらい挙動不審な様子で私をまじまじと見つめた。
「…、頭でも打った?」
「打ってないよ、失礼だな。」
「そ、か?」
ひとつ、ふたつ、頭を掻いて、彼はくすりと笑った。
「今日は、素直なんだな?」
「いつも素直だよ。」

ふわりと細められた瞳から目が離せなくなる。
それを知ってか知らずか、彼は私の額に軽くキスを落とした。
「俺も好きだぞ?」
「うん、だといいなって今思ってた。」

信じてなかったのか?

なんて悪戯に笑って、ぽんぽんと私の頭を撫でる彼の手のひらに自分の手を重ねて。

「浜田が、」
「おう?」
「浜田がいれば、他に何も要らないかもって今思った。」

少し驚いたような顔、そのあとに真っ赤に染まる顔。

長く深いため息をついて、浜田は「プロポーズ?」などと言いながら私の額に今度は二回キスを落とした。


(俺も同じこと思ってたよ)




想う 想う あなただけを