ふ、と吐いた息が白く濁って宙に浮かんで消えた。寒さを実感する。
頬に刺さる冷たい風が、私の存在の証だと不意に思った。
「寒いな。」
隣を歩く彼が、不意にそう発したのを、数秒遅れて聞き取った。
「…え?」
「寒いな、って言ったの。」
「…うん、そーだね。」
「そっけねーなぁ。」
微笑したその頬から、ふわり、と冬には似つかわしくない甘い香りが舞ったのを確かに感じた。
酷く、甘美で優美な其れは、私の中の何かをやんわりと包み込んだようだった。
自分でも気が付かないうちに、自然と頬が笑みをつくる。
「何笑ってんだ?」
「ん、浜田が浜田だと思ったから。」
「何それ。」
あまりに曖昧で、謎かけのような応えを返した私に彼はくすりと笑った。
彼を見上げると、優しくほほえんだ瞳と視線が交差した。
「…浜田、」
「どーした?寒い?」
「ううん。大丈夫。」
「ならいいけどさ、手繋ぐか?」
「浜田の手、冷たそうだからいいよ。」
「ひっで。」
そう言いながらもお互いの手は絡み合っていて、顔を見合わせて少し笑い合った。
「素直じゃねーの。」
彼の顔が間近に迫る。
視界が彼に埋まり欠けるとき、端っこに映った星空がひどくまぶしかった。
(おまえの瞳に映った星空がひどくまぶしかった)