ひどく空の高い日だった。なんとなく気分が良くて、それはきっと太陽の光がきらきらと差し込んで俺を体内から目覚めさせるからなのだけど、
俺は昂ぶる気持ちを隠すことなく鼻歌を奏でながら、昼休みの生徒でごった返した廊下を歩いていた。
笑い声と、幾つもの足音。喧騒とも取れるそれらの音さえも、何故だか愛おしい。
ふ、と数メートル先に見えた人影に、一度胸がおおきく弾んだのを、自分でも確かに感じた。
少女漫画さながらの自分の心境に、どこか可笑しさを感じ、それでも高鳴る鼓動は俺の心をまるで子供のように踊らせ、弾ませた。
数人の友達と輪になって笑顔を浮かべながら話すの姿だけが、陽に当たっているわけでもないのに光って見えるのは、きっとこの気持ちが
揺るぎない恋だからだ。
俺の目はいつだって彼女を正確に捉え、耳は彼女の声だけを綺麗に切り取って聴覚へと伝えてきた。
彼女へ声をかけようと決め、少しだけ早くなる歩調は、確かに彼女への好意を表していた。
「っ!」
確かな好意を抱いているからか、自分の声が普段より幾分か高くなっている。
少し気恥ずかしいような、けれどそれすらもが愛おしいような、理解し難い感情だけが募っていく。
ふわりと、柔らかい髪を揺らして振り向いた彼女が、少し微笑んだ。
「あ、浜田。どうしたの?」
「おー、いや、なんとなく?見かけたから。」
「そういえば今日はまだ話してなかったね?」
にこりと微笑む彼女の後ろで、彼女の友人たちが何かこっそりと話をする。
(あー、きっと俺が狙ってるのバレてんだろーなぁ。)
そう思うと、少しだけ気恥ずかしいような気がして、頬が赤らむのを感じた。
「浜田?顔赤くない?風邪?」
そう彼女が首を傾げるのと同時に、周りの友達がくすくすと笑う。
それに目だけで「からかうな」と訴えてみるが、年頃の女の子たちにとってそれは最高のネタでしかないらしい。
更に声をあげて笑い出した友人たちを見て、は更に不思議そうに首を傾げた。
「あー、うん、風邪じゃないから。大丈夫大丈夫。」
「そう?夏風邪は馬鹿しか引かないっていうから、気をつけてね?」
なんて悪戯に笑ってみせる彼女が、ひどく可愛らしく映るのは、いよいよ俺も夏の暑さにやられているということなのか。
酷いこと言うな、なんて同じように笑って返すと、彼女は声をあげて笑った。
恋という名の病気は、俺を狂わせるのだ。
たった一言に一喜一憂して、ひとつの動作に心臓は脈を速め、その声に指に髪に、すべてに体中が反応する。
狂ったように、恋をしてしまった。
「あ、そうだ。浜田。」
「え、なに?」
「この間、約束してたCD、持ってきたよ。」
「マジで?サンキュー!」
「教室にあるから、取りに行こ!」
そう言うと、彼女は友人に手を振ると、俺を連れて教室へと向かい始めた。
細くて綺麗な足が動くたびに、スカートの裾がひらひらと揺れる。
動きに合わせて流れる髪が、ひどく悩ましくて、後ろ姿ですらも俺の鼓動を高めるには十分な色気を帯びているように見えた。
彼女が鞄から取り出したCDケースが光を反射させてチカチカときらめく。
俺の世界が色鮮やかになっていくのは、恋という病に犯されたからだろうか。
「浜田とは音楽の趣味も合うし、なんか嬉しいね。」
くしゃりと音さえ聞こえてきそうな程に、表情を弛ませる彼女の笑顔がひどく愛おしくて、眩しくて、胸が高鳴っていく。
終わりを知らない昂ぶりはどこまでも俺を追いつめて、焦らせる。
あと一体どれ程好きになれば、終わりが来るのだろう。
何をしたら、どうしたら、この恋は報われるのだろう。
そんなことばかりが脳内を巡って、時折胸を刺すように抉るように痛くしたり、かと思えば世界中の幸せをかき集めたように俺を舞い上がらせたり。
やっぱり恋という病は、俺を狂わせるのだ。
I'm carzy for you !
僕は君に狂わされる